Misericorde

001 神話

悲母トランメディセインは人に自らの眼球を与え続けていた。
人々の苦しみや飢えから救おうとトランメディセインは幾度も生まれる自らの眼球を与え続ける。
その眼球は甘美。
その眼球は神聖。
その眼球は慈悲。
その眼球は不滅。
人々は苦しみから、悲母の眼球を求め続けた。
しかし、トランメディセインがいくら苦しむ人々から自らの眼球を与え続けても、人の飢えや苦しみは無くなるどころか、人が強欲になっていった。
人々はトランメディセインの眼球奪い取ろうとした。
トランメディセインはその人々のその様を見て、酷く悲しみ泣き続けた。
深い悲しみで泣き続け、与えても生まれ出た両目はとうとう生まれなくなってしまった。
悲母の涙は雨や川や湖や海になった。
トランメディセインが泣き止まぬうちに、島の陸地が涙で沈みかけていた。
島が沈みかけ、涙が陸地に生える白いバラの花触れ、その花が沈みかけた時、花の神リリサラソムが悲母トランメディセインの首をリリサラソムが持つ鎌で刈った。
トランメディセインの血は島の花を赤く染め、慈悲の花が生まれた。
トランメディセインの白い骨は白百合となった。
トランメディセインの肉と血管は樹になった。
悲母トランメディセインは花の神リリサラソムに首を刈られる前に人々に業をかした。人が人を生めない事を。
人が強欲であったために。
そして、最期の悲母の首は貝になり、眼孔の奥の底には真珠があった。
また生まれようとした最後の眼球を真珠に変えて。

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2022/09/30